[ 目次 | 検索 | 送信 | 返信 | 次へ | 前へ | 上へ ]
分類: 分類 1
Date: 2003 07 15
Time: 23:47:46 +0900
Remote Name: 219.104.253.33
Remote User:
絶対予後不良疾患対応指針案 対象疾患 根治療法のない身体的精神的異常を有し、高度の精神運動発達遅滞(追視、あやし笑い不能)もしくは短命が予測される場合。
(I) 出生前診断がついている場合の対応 判明した情報を家族に提供した上で出生後の対応について暫定的に治療方針を決定しておく。 情報提供は親権を持つすべての保護者(多くの場合両親であるため以後両親)同席のもとで行われなければならない。祖父母など親族の同席は両親の判断に委ねる。説明者はその疾患がなぜ絶対的予後不良であるかを病因論的もしくは疫学的に両親に十分理解させなければいけない。また説明者は胎児の生命の尊厳に十分に配慮した説明を行わなければならない。これを怠るといたずらに「モンスターイメージ」を膨らませる事となり、分娩は母親にとって単なる胎児除去術となってしまう。意志決定に際し可能な限り家族に時間的余裕を与える。
意志一致すべき内容は以下の通り。 1.胎児仮死兆候があった場合に帝王切開を行うか否か。 2.出生時仮死の場合の蘇生を行うか否か。 「吸引と簡単な刺激以外は行わない」「気管内挿管も含めて積極的に行う。」 気管内挿管も含めて積極的に行う場合は以下の項目は省略。 3. 哺乳困難時の経管栄養、維持輸液を行うか否か。 哺乳可能な児に絶食を強いたり、経静脈的に補液を行う選択肢は提示しない。 4.生命維持が困難な場合、NICUに収容して次段階の治療を行うか、母児同室のまま看取るか。
上記1-4の説明に際しそれぞれの処置をした場合、しなかった場合に予想される状況を説明文の中で明記する。 方針決定に際し、いかなる場合でも現時点で児への治療を拒否する法的、倫理的な根拠はないため家族が積極的な治療を望んだ場合はその意思を尊重する。ただし、母体の健康を明らかに損ねる治療は選択肢として提示しないし、家族から申し出があっても拒否してよい。児の生命延長やQOLの改善に貢献しない治療(口唇口蓋裂や骨性多指症などの形成術など)に関しては選択肢としては提示しないし家族から申し出があった場合は勧めない、もしくは優先順位はかなり下がる旨説明する。
出生前になされた一致内容はあくまでも暫定的なものであり、出生後の患児の様子と親の気持ちの変化に合わせて何度も面談を行っていく。
出生までに家族との間で上記確認が出来なかった場合、もしくは院外出生も含めて出生前診断が出来ていない場合は原則的には外表奇形の有無で蘇生処置を中止しないで通常の仮死、適応障害への対応を行い、必要があればNICUへ収容する努力をする。 ただし、致死性小人症や無脳症、単眼症を含む正中顔面裂など外表奇形だけで確定診断が出来る絶対的予後不良疾患に関しては家族にその事実を告げ蘇生を中止して看取ることを勧めることは蘇生者の裁量に委ねる。
(II) NICUへ収容された後の対応。 診断がついていない場合は、確定診断のための検査を行う。染色体検査も含め最終診断が下されるまでの間は救命のために通常の治療を行う。
診断がついた時点でなるべく早い時期に検討会を行う。出席メンバーは担当医、主治看護師、出生前訪問した医師、新生児科部長(不在時は主任医長)、師長(不在時は主任)を必須メンバーとするが、それ以外の希望者の参加は自由とする。検討会の招集は必須メンバーの誰でも行う事が出来る。 検討会の目的は以下の2点。 1. 情報の共有化: 疾患概念、当該症例の病状、これまでの経緯、両親に行われた説明内容とその受け止められ方、両親の現在の希望、両親を取り巻く社会的状況などについて情報を共有する。 2. 治療方針の確認: 治療方針の決定は家族の意向を十分に尊重して行われるべきである事に異論はない。しかし医師、看護師が原則を持たずに場当たり的に家族の揺れる気持ちに合わせた診療行為を行うことは家族にとっても患児にとってもとても不幸な事である。 対象症例では治療の目的は児の延命ではなく、(1)児の苦痛軽減、(2)家族とふれあう時間の確保(家族のサポートも含む。)の2点である。医師、看護師はこの2点に対して最大限の努力を払う。個々の症例における特殊事情に対しての治療法の選択はこの2点を保障するか否かについて検討されるべきである。
その治療が児の苦痛を軽減させる治療である事を絶対条件とする。 チューブ挿入によるairwayの確保、経管栄養、末梢ルートによる維持輸液、けいれんに対する抗けいれん剤の使用もこの中に含まれる。全ての患児はこれらの治療を受ける権利を有する。閉塞性の呼吸不全やけいれんを起こしている児、餓死しかけている児を放置してはいけない。これらの医療行為が家族と児の接触を妨げるとは思えない。積極的な人工換気などはその時点で行われている治療を維持するか状態の悪化に伴い変化させていくのかを検討する。状態の悪化が一過性多呼吸や気胸、感染症など乗り越える事が出来るものでその後の安定期が期待できる場合は治療の対象となりうるが状態の悪化が非可逆的なものであれば治療のステップアップは行うべきではない。
例外的にその治療によりある程度の期間状態の安定が期待でき、退院して在宅での看取りが可能になり、家族もそれを強く希望している場合には一時的に児に苦痛を与える手術療法も含めて全ての可能性を検討するべきである。 このなかには消化管奇形に対するstoma造設手術や吻合術など、水無脳症に対するシャント術や髄膜瘤閉鎖術、長期気道確保のための気管切開術、動脈管結紮などの一部の心臓外科手術も含まれる。(心血管系の手術をどこまで行うかに関しては明確な線引きが出来ません。現状では倫理的問題に加えて医療経済的な問題も含めて行われない事が多いですが、本来なら上記2点の原則を元に検討すべきでしょう。21トリソミーのお子さんへの心臓手術適応の変遷でも判るようにこれから変わってくるかも知れません。)
症例の基礎疾患重症度が極めて高度(一つの指針として在宅医療への移行が可能か否か)で状態が悪化傾向にある場合は延命に寄与する治療(採血などによる感染症監視と抗生剤使用、体液バランスの評価とその補正、血液ガス検査と呼吸器設定の調節、貧血に対する輸血、循環動態のモニタリングと薬物使用、全ての外科的処置)はそれが家族の希望であっても医療サイドとしては勧めない事を原則とする。栄養に関しては経口経管栄養と一般的な維持輸液のみとし、面会時間の確保に努める。
在宅医療への移行の可能性及び家族の希望が不明確な場合は外科的処置以外の全ての治療について検討する。(方針が曖昧な場合は手術は行わない。)
いずれの場合も両親の面会、児の介護への参加を可能な限り支援していく。 治療方針についての上記内容はあくまで原則であり、症例によりスタッフ間で意志一致が困難な場合は病棟内で結論を出す事に固執せず院内関連委員会での検討を考える。
注)在宅医療への移行は望めないほど重症だが、家族が延命のためのあらゆる治療(患児へ苦痛を与える内容を含む)を強く望んだ場合の対応をどうするかは未解決。また逆に栄養を含む全ての治療を強く拒否した場合(通常の養育拒否と同様に考えるべき?)の対応も未解決。
注)在宅医療への移行が可能な程度の重症度というのは曖昧ですが、ここでは在宅人工換気は考えていません。話はずれますが在宅人工換気は家族の様々な負担があまりに強く今の日本の社会制度では全ての家族に無理強いしてはいけないものです。個人的には患児があやし笑いなど家族との時間を共有できる程度の精神発達があるのであれば在宅人工換気は家族にとっても患児にとっても有効であると考えています。そして、あやし笑いが出来るような精神発達のある赤ちゃんは寝たきりだろうと短命だろうとこの指針の対象から外れます。